水月 バレ

水月 パッケージリニューアル版

水月 パッケージリニューアル版


以下ネタバレ


雪さんのEDが微妙にアンハッピーなことについては、まぁ、話の構成上しかたないかなぁ、と思います。

いや、でもね、あれで満足したかっつうと、大満足とは言えない。あのEDはあのEDで良いんだけど、それとは別にもっと幸福絶頂なEDも僕は欲しかったわけですよ。雪さんにしっぽりと甘えつつ、学校では花梨やナナミんにちやほやされる日常を過ごしていきたかったわけです。ええ、僕はシエルグッドEDとか凛グッドEDとか大好きなぬるま湯ヘタレ野郎なんですよ。悪いかっ!?(逆ギレ)

で、実際にそういう幸せな可能性はなかったんだろうかと。

前回書いたように、雪さんが世界から弾かれてしまうのは、雪さんが透矢の「常識の枠」の外側の存在だからだ。これは那波が用いた波紋の説明を思い浮かべればビジュアルとして理解しやすいと思う。記憶をなくした透矢は、「常識の枠」が不安定だからこそ、境界線周辺の存在(つまり波紋と波紋がぶつかっている境目の世界)を認識できてしまうわけだ。以前に那波を都市伝説に例えた事があったけど、「口裂け女」にしろ「赤マント」にしろ、そういった「怪」というものは、常識の枠組が出来上がっていない子供に限って見てしまうものなのだ。(この辺を理解できないという人は、ここの論考の最初のページだけでも読んでみましょう。子供が電車の中で「ワンワン」を見てしまうのと理屈は同じ)


物語が進んで、透矢の「常識の枠」が安定するにつれ(つまり境界線が明確になるにつれ)、雪さんや那波といった枠の外の存在を透矢は認識できなくなっていく。何度も繰り返される「那波を射殺す夢」の中で、透矢は少女を殺すまいと必死で抵抗するわけだけど、これはつまり、今まで培ってきた透矢の人間性が、「弓道」という行為に込められているからだ。記憶を取り戻し、透矢が「本来の自分」を取り戻してしまうということは、透矢にとって雪さんや那波を殺してしまうことと同義なのだ。だから透矢は無意識に弓を持つことをためらうわけである。

理由はどうあれ、透矢は記憶をなくしたからこそ、ママ(那波)との再会の約束を果たせたわけだ。だがその一方で、花梨は透矢に記憶を取り戻し、元に戻って欲しいと考えてるキャラなのである(逆説的だが、だからこそ彼女のポジションは幼馴染なのだ)。花梨というヒロインは、那波や雪さんは勿論のこと、透矢と新しい関係を築いていこうとする和泉なんかともことごとく対立してしまう。それは物語の構造的に宿命なのかもしれない、とか。


ありゃ? 雪さんのハッピーエンドの可能性を語る予定だったのに、前振りを書いているうちに脇道におもいっきり逸れてしまったな。