それ散る擁護論

それは舞い散る桜のように DVD-ROM版

それは舞い散る桜のように DVD-ROM版

まだやってない人は今すぐプレイだ。BasiL潰れて結構経つし、そのうち本当に手に入らなくなってしまうかもしれないぞ。ちなみにネット上に流布している「未完成」とかいう噂はガセです。俺を信じろ!


それは舞い散る桜のように (バレ)


それは舞い散る桜のように』には続編が計画されていたという噂があって、予定されていたその続編のタイトルは、『けれど輝く夜空のように』というらしい(うん、良いタイトルだ)。けど、「この『けれ夜』が発売されていないから『それ散る』は未完成なんだ」とか言われてるのを見ると、そりゃ違うだろと。『それ散る』が未完成に思えるなんてのは、言っちゃ悪いが8割方読み手の問題だ。


「なぜ舞人はヒロインに忘れられてしまったのか説明がない」とか、
「なぜヒロインが舞人のことを思い出したのか説明がない」とか、
「舞人や桜花たちの正体について説明がない」とか、


そんな「説明」なんてものは、ファンタジーにおいて鼻紙ほどの価値もない。仮に『けれ夜』が発売されて、これらの疑問に対して逐一「説明」が行われたとしよう。断言しても良いが、絶対に以下のようになるはずである。


「なぜ舞人はヒロインに忘れられてしまったのか?」 → 呪い(またはその類)
「なぜヒロインが舞人のことを思い出したのか?」 → 奇跡(またはその類)
「舞人や桜花たちの正体について?」 → 桜の化身(またはその類)


満足しただろうか?
現実の論理に縛られていないファンタジーというジャンルにおいて、どんな非合理な現象が起ころうとも、その「説明」など常に後付けのオカルティズムに過ぎない。どんな現象だろうと、呪いや奇跡の類ですむのである。実際、『秋桜の空に』などはまさにそういうゲームだったが、別に説明不足という批判はなかったと思う。それ散るは説明不足と言われているが、その「説明」なんてものの正体はこの程度のものでしかない。

僕は呪いとか奇跡といった表現が大好きである。だがそういった言葉は、不合理な現象を “ とりあえず ” 説明するための、言わば空っぽの箱のようなものだ。それらの言葉は実はいかなる現象をも説明しておらず、だからこそ、その空の箱にどれだけの意味を込められるかが描き手の力の見せ所なのだ。(例えば『Kanon』において、プレイヤーは奇跡という言葉自体に感動したわけではなかったはずだ。あれは奇跡という「表現」に込められた、裕一やあゆたちの想いにこそ感動したのではなかったか?)

もう一度言おう。
「説明」など、ファンタジーにおいて鼻紙ほどの価値もない。
ファンタジーとは考えるものじゃない。感じるものなのだ。


だから整合性合わせの考察もどきを書き連ねようと、仮にいつか『けれ夜』が発売されようと、いまここにある『それ散る』という物語に対してなにも感じられないのであれば、どんな説明を重ねたところでたいした意味はない。例えば 「桜の丘の子供たち」を「桜の精」だとか「桜の生まれ変わり」だとか、みみっちい言葉で解釈することに何の意味がある? どうして全てを内包した「桜の丘の子供たち」という「表現」を受け入れられない?

それ散る』は読み手の感性にこそ働きかける、本当の意味でのファンタジーだ。作中の表現で言えば、あれは「童話」(啓蒙的な含蓄のある児童文学)だ。くだらない「説明」などクソ食らえなのだ(「100万回生きた猫」が最後に生き返らなかった理由をいちいち説明するか!?)。にも関わらず、桜の丘の情景として丹念に描かれた「表現」が、呪いだとか奇跡だとか一言二言の陳腐な「説明」にすら負けてしまうという現実がやるせない。

もちろん『それ散る』にだって稚拙な部分はある。物語は大きく分けて、「桜が忘れ去られてしまう論理」(ニヒリズム)と、そこから「また桜が花を咲かせようとする論理」(ニヒリズムの克服)によって構成されている。前者はともかくとして、後者を充分に描けていたのは雪村シナリオぐらいだろう。他シナリオも、かぐらなどのサブキャラを使ってそれを描こうとしているのだけれど、やはり練り込みが弱いように思える。

とはいえ雪村シナリオだけを評価するなら、僕的に『それ散る』という物語はパーフェクトに近いのだな。これが未完成? ご冗談でしょ、ってなもんだ。それだけに、2chとかで「テキストは良いけど、それだけ」みたいに書かれているのを見かけると、今でも凄い勢いで反論したくなる。……んだけど、下手すると身元バレしかねない(それ散るのテキスト以外を褒める奴、ホントにいねぇからなぁ)ので我慢してストレス溜めつつ、「畜生! おまえ等にそれ散るの良さが判ってたまるかってんだ…」とか何とかブツブツ言いながら枕を涙で濡らしているわけである。


……今日の日記? うん、ストレス解消。