天使ノ二挺拳銃


先に悪評を聞いていたので、あまり期待せずにプレイ。そのせいか、予想してたよりは悪くなかったですね(我ながら言い回しが微妙になってます)。テーマ的には「未来に希望を持てる人間って素晴らしい!」みたいな人間賛歌で、そんな所はニトロプラスらしい味を出してますね。ただしこのゲームは希望を描くために、むしろ絶望に暮れる世界こそを描きます。


中でもぶっ飛んでたのがアンリシナリオですね。これは凄い…、というか何というか…、ぶっちゃけ気が遠くなりました。直後に思い浮かんだのが『X(劇場版)』とかデビルマンとかバタリアンなんですが、その辺りで僕の茫然自失っぷりを察していただけると幸いです。っていうか、報われねぇ話だな、おい…。


今回、辛うじて王道っぽい展開を見せるのは小巻シナリオぐらいなので、アンリや風子(は少数派だと思うけど)目当てで買おうと思ってる人は覚悟したほうが良いと思います。まぁ、アンリは設定上仕方ないんですけど。はぁ…。


ここからはネタバレ

テーマ的には、なかなかしっかりと話を作ってあると思いました。神を懐くことなく、本能によってのみ行動する天使たち。それ故に彼らは絶望も希望も知らず、ただ本能のままに破滅へと向かっていきます。一方で、絶望の中で縋るべき神に祈り続け、最後まで可能性を模索し続ける人間たち。彼らは希望を知るが故に、時に自らが招いた絶望によって押し潰され、結局は破滅していきます。


神を懐くものと懐かざるもの。物語は、その二者の在り方を二挺拳銃になぞらえるわけですね(って、何で二挺拳銃なんだろうね、とか考えたら負けか…)。んで、各シナリオ。展開の違いは、要するに人間と天使の組み合わせの違いです。


アンリシナリオの場合。天使であるヴィムは世界に対して基本的に傍観者です。ヴィムは天使としての在り方に忠実であり、希望も絶望も知ることなく、ただ本能のままにアンリと愛し合います。結果、人間たちは人間たちで、勝手に絶望して破滅していきます。


風子シナリオの場合。ヴィムは天使として人間である風子と関わり、彼女に「ずっと一緒にいる」と約束します。天使であるヴィムは希望的観測とは無縁ですから、それはヴィムにとって一時しのぎの嘘にすぎません。しかし人間である風子にとって、その嘘は間違いなく本物の「希望」となり、風子の生きる力となるのです。いわゆる「嘘も方便」という宗教の本質がそこにあるわけですね。


最後に小巻シナリオ。このシナリオではヴィム自身が人間となり、「神」(もちろん抽象的表現としての)を信じることの出来る立場となります。小巻による生物学の説明の中で、「まず仮説をいくつも立てて、その可能性を潰してゆき、最後に一つだけ可能性が残れば証明終了」というような話がありますが、「神」というのは人間にとって、言わば最強にして最後の可能性です。なぜなら、誰であろうと「神」の存在を否定しきることは不可能だからです。だからどんな絶望の中にあろうとも、人間は「神」を信じて祈ることで、最後まで「希望」を失わずにすむ。土壇場に立たされた人間が、それでも最後に縋ることのできる可能性。それが「神」なのですね。だからヴィムが人間になったこのシナリオのみ、ヴィムは「希望」を信じて未来を掴むことができるわけです。


というわけで、シナリオの書き分けという点で、わりと理にかなったゲームデザインだったと思います(好き嫌いは別にして)。その一方で、エンターテイメントとしては、話の転がし方に少し難があるようにも思いました。


例えば風子。「本当はいつでも肉体に戻れた」という設定は、シナリオ上、一番最初に書いておくべきことではなかったか? 僕はアンリシナリオから始めたのですが、後半にいきなりそのことを聞かされて、感動する前に呆れてしまいました。


例えば小巻。ヴィムの必死の説得に耳を貸さない小巻は、人を信じすぎるというより少しアホなのではないか? 同じく、しどろもどろにしか説明しないヴィムは、実はバカなのではないか? この辺はストーリーを動かすために、キャラを不自然にしてしまっているように思えます。


なんか今回、キャラ魅力が薄い気がするんですよね。殺し屋の一斉なんかは、いつものニトロ作品なら相当かっこよく描かれているはずのポジションなんですが、どうにも最後までショボクレ親父でした。見せ場があっても、そのあとすぐにゾンビ化するし。小巻シナリオの新沼とサムも、いくらなんでも不自然さが…。はっきり言って、共感できるキャラクターがいないんですよね。気にいったのはジェイとペーターぐらいかなぁ。


僕のニトロ作品の順付けは


デモンベイン≧ファントム>鬼哭街沙耶の唄>>>(越えられない壁)>>>ヴェドゴニア


なんですが、『天使ノ二挺拳銃』はヴェドゴニア辺りと同格かなぁ。ヴィジュアル的には気に入ってて、シナリオも部分的には好き、みたいな。