『Fate』の構成とかの話

Fate/Stay night 初回版

Fate/Stay night 初回版


さっき気付いたんだけど、セイバールートって「何日目〜」という表示が1日抜けちゃってるのね

2月10日(11日目)イリヤの城
2月11日(???朝)森での戦い
2月12日(12日目)←本当は13日目

という事で、セイバールートは本当は全16日間なのでした(前振り)。

オタク学入門』 〜ストップウォッチのシナリオ学
http://www.netcity.or.jp/OTAKU/okada/library/books/otakugaku/No5.html#anchor1015694


一つのシナリオの中には様々な要素が含まれている。アクションや恋愛パートは物語の華だけど、日常生活やテーマ的な部分は言わば物語の屋台骨だ。単純にアクションの比率を増やせば面白くなるというわけでもなく、全ての要素がバランス良く配置されているのが望ましい。で、それにはやはり美しく見える黄金パターンというか、要するにセオリーがある。
映画でも小説でも、2クールのTVアニメシリーズでも、もちろんエロゲにも言える事なんだけれど、シナリオの要所要所に注目すると構成バランスの良し悪しが見えてくる。

例えば『Fate』のセイバールートを見ると、序盤の4日間は士郎が聖杯戦争を知る「動機」部分になっている。登場人物が紹介され、世界観が描かれ、物語の核となる事件が発生する。折り返しの9日目で、学校が戦いの巻き添えになる事によって士郎が初めてセイバーを頼り、戦いが激化していく。ここが「転回点」だ。12日目のバーサーカー戦は中盤のヤマ場。ハリウッド映画と比べると、ボリュームがある分だけ中盤のヤマ場は後ろにずれ込むけれど、だいたい物語の3分の2地点(2クールのアニメなら15〜16話辺り)というのがセオリーだ。それを過ぎた13日目からがクライマックスに至る為の準備期間となる。物語のテンションはいったん下がり、主人公とセイバーの内面(テーマ)が描かれていく。ギル様登場によって戦いの行方も不透明になり、心身ともに追い詰められた教会のシーンで物語は収束。士郎とセイバーの決意は固まり、それらを昇華する形でクライマックス部分に突入する。

……というように、「王道」と言われるだけあってセイバールートはセオリーに忠実だ。もちろん世の中にはセオリーを無視した名作だって数限りなくあるだろうけれど、作り手がセオリーを踏まえているか踏まえていないかは、やはり大きいと思う。なんせそういった方法論は、才能に左右されない「技術」だからだ。きちんとセオリーを守っていれば、才能の有る無しに関わらず、ある程度のクォリティが約束されるのである(もっともエロゲの場合は、才能の無いライターほど技術の欠片も無かったりするけど)。他のエロゲだと、TVアニメシリーズを意識したニトロプラスの『斬魔大聖デモンベイン』(15話構成)などを比較してみると面白い。このゲームの構成もかなり洗練されてるので、自然と共通した部分が見えてくるはずだ。売れるメーカーというのは、きちんとした方法論に則って、売れるべくして売れているのである。


で、話は『Fate』に戻るんだけれど。

セイバールートや凛ルートに比べると、桜ルートはとかく冗長と言われがちだ。が、ちょっと待って欲しい。それは三つのルートをマルチシナリオ的に、つまり並列にして比べるからバランスが悪く見えるのである。事実上、三つのルートは直列に繋がれた一本のシナリオであり、『Fate』という物語全体を見渡したときの構成バランスは決して悪くない。というか、完璧にセオリー通りだ。個人的にはこのシナリオの規模で、これだけバランスが取れている事に驚きを隠せない。それだけに、正直、もうちょっと評価されたって良いと思うんだよなぁ…。