シンフォニック=レイン デジタルピクチャーコレクション

お目当てのオリジナルノベルは、ヒロインの視点で描かれる外伝が三本収録。2000円って随分安いなぁ、と思ってたら、ミニADVではなくて、本当に普通の挿絵付きSSでした。とはいえ、むしろそれで正解だったかもしれません。


座談会でライター自らが「キャラクターに感情移入して書くくせがある」と公言する通り、実際この方、キャラクターにシンクロして不安とか苦しみとか後悔とか羨望とか嫉妬とか喜びとか、思う存分に感情ぶちまけながら書いた方が数段良いものに仕上がると思いました。そういう意味で、ギャルゲー特有の無個性な主人公視点は、この方の良い所をスポイルしてしまう気がします。実際、al fine編って、終盤だけはちょっと弱いと思ったし。


いやまぁ、このゲームの場合、あまり主人公を掘り下げて描くとと、トリックがばれちゃうのもあるんですけどね。しかしヒロインが魅力的に描かれているのに比べると、クリスはどうしても「ぼーっとしてて、なに考えてるんだか良く判らない奴」という印象が残ります。本当は感情の起伏の激しい奴という設定なんだけどなぁ…。


閑話休題


外伝の中ではリセとファルがメインの『いかさまコイン』が良い感じです。
以下ネタバレ。


ファルに関しては掲示板でもちょっと盛り上がったのですが、やっぱり僕には、この娘は無理しまくって自分自身を傷つけているようにしか見えないです。孤児院の子供たちから憧れの目で見られて目を逸らしてしまったり、売名行為で孤児院をまわるグラーヴェに嫌悪感を抱きつつ、その姿に自分自身を重ねてしまったり…。何もそこまで自分を追い詰めなくったって良いじゃん、もう可哀相でみてらんないよ、みたいな。


一方でリセは、自分たちの活動がグラーヴェの売名行為と知った上で、それが素晴らしい行為だと言い切ることができる。今恵まれた環境にある自分の姿が(それが虚像だとしても)、子供たちにとって希望になり得ることを知っているわけですね。ただ、子供たちの憧れる虚像に見合うだけの実力を持たず、今の環境を幸せだと思うことすらできない自らの実像を恥じているわけですな。


ただひたすらに実像を追い求めるが故に、子供たちの憧れる虚像の重さに苛立ち続けるファルと、子供たちの憧れる虚像に忠実であろうとするが故に、それに追いつけずにいる自らの実像を卑下することしかできないリセ。二人にとってお互いはまさしく理想であり、この二人の実像と虚像のギャップをコインの両面に見立てているわけですな。上手いです。


何度もしつこくグチるみたいだけど、この二人は本編でちゃんと幸せになる所まで描いてあげてほしかったなぁ。


ところでこの話、なんだか不自然な終わり方をしていると思ったら、バグで最後まで読めない仕様だったらしいです。おいィィィ!
工画堂のホームページで差分DLできますゆ。